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2026.06.17
  • コラム
酪農と消費者をつなぐ。地域の軸となる牧場へ。

期待のニューフェイス 福井県に誕生


酪農主産地ではない地域だからこそ、酪農の〝価値〞を高める役割を担えるのではないか―。そんな思いを胸に、酪農経営に挑む二人がいます。木村海音さん・彩歌さん。福井県大野市で2024年に新規就農した、若き酪農家です。
 福井県は米の生産が盛んな地域。県内に酪農家は少なく、大野市内にも数軒程度しか牧場がありません。酪農家が少ないということは、関連機関や企業のサービス、サポート体制などが限られるということでもあります。しかし一見不利に思える環境も、考え方次第、やり方次第でプラスに変えていく。そんな底力を感じさせる二人は、現在「地域の軸になれる牧場づくり」を見据えて、牧場づくりに励んでいる真っ最中です。

酪農家はかっこいい産業としての魅力も就農の決め手に


海音さんは同県の福井市出身。米の兼業農家に生まれました。米作りに励む祖父や父の背中を見て育ったことから、将来は食糧生産に貢献したいと考えるように。反面、以前から「人とは違うことをやりたい」という気持ちもあったそうで、福井県では見られない牧歌的風景への憧れや動物が好きだったことから、北海道帯広市にある帯広畜産大学への進学を決意しました。
 一方で、彩歌さんは北海道紋別市の酪農家出身。曾祖父の代から続く牧場で、幼少期から牛と触れ合い、高校生の頃には酪農関係の仕事に興味を持つように。海音さんと同じく帯広畜産大学へ進学します。
 二人は研究室も一緒の同級生。家畜行動学とアニマルウェルフェア(動物福祉)を学びつつ、近隣の牧場でアルバイトをしながら実践的に酪農業と関わる毎日を過ごしてきました。そんな二人の背中を押したのが、アルバイトで出会った酪農家たちと、酪農が持つ産業としての魅力です。
 「酪農家は土、草、牛、機械など全てを見て、自分で解決する。そのオールマイティーさが、とてもかっこいいなと思ったんです」と海音さん。アルバイトに通っていた牧場で、地域の主力作物である小麦のわらを買い取って牛床の敷料(ベッド)にし、牛のふんを堆肥として小麦畑にまく〝循環づくり〞を実践していた様子を見て「酪農は地域の軸になれる産業」と確信。地元・福井県でも水田に堆肥を還元したり、耕作放棄地で牧草を作って土地を有効活用することができるだろうと考え、改めて酪農家になりたいと思うようになりました。
 彩歌さんは「最初は酪農家として独立するまでは正直考えていなかったんですが…」と言うものの、授業やサークル活動、新規就農者との交流を通して、牛のかわいさや酪農家ならではの暮らしにあらためて魅力を感じるように。海音さんの夢を応援し、共に酪農家としての道を歩むことを決意します。

現地の受け入れチームが発足 オンラインを駆使して就農へ


大学卒業後、二人は就農に向け、彩歌さんの実家の牧場で従業員として働き始めます。同牧場は約450頭(うち搾乳牛200頭)を飼養し、餌やりは自動給餌機、搾乳もミルキングパーラーで一気に行うスタイル。広大な土地を生かして粗飼料(※1)も生産していました。現在のきむら牧場とは規模も飼養方法も異なりますが、従業員としての経験は、各経営スタイルのメリット・デメリットや酪農の実態を知る良い経験になったといいます。
 転機が訪れたのは2022年10月のこと。以前から「新規就農をしたい」とオープンに話していた海音さんの下に、SNSでつながっていた福井県の酪農家から「大野市内に離農予定の酪農家がいる」との連絡が入ります。早速、現地に向かい、離農する酪農家や行政担当者らと面会。その時の歓迎ムードから勇気をもらい、二人は就農を決意しました。
 コロナ禍をきっかけにオンラインが普及していたこともあり、遠隔で就農準備がスタート。大野市では県の普及指導員や市の職員に加え、日本政策金融公庫の元職員、税理士といった専門家で構成される支援チームが結成されました。木村さん夫婦とオンラインミーティングを重ね、牛の導入計画から就農計画書の作成、資金管理や補助金活用までを全面的にサポート。先代はすでに離農していたため牛を一から導入する必要がありましたが、引き継いだ牛舎はバーンクリーナーやバルククーラーなどの大型設備の状態が良く、土地も借りる形にすることで初期投資を抑えることができました。そして、2023年9月に夫婦で大野市に移住しました。

経営者としての責任と、人間らしい暮らしを感じて


2024年4月から経営が始まり、1年半。北海道の酪農とは勝手が違い、主産地ではないからこその大変さを経験しながらも、二人は酪農経営者としての実力を着々と身につけています。
 日々、気を配っているのが、牛の体調管理と自らの体調管理。「お腹いっぱいになるように」と、搾乳牛への餌やりは朝・昼・晩と細かく分けて与えます。子牛にも同じ回数を哺乳しているかいあってか、下痢をしたり、風邪をひくことなくスクスクと成長中。雄子牛を育てる近隣の肥育農家からも、お褒めの言葉をいただいたのだとか。
 「北海道で従業員として働いていた時以上に牛への責任、1頭の重みを感じます」と海音さんは言います。福井県では家畜人工授精師(※2)がいないため、酪農家自らが人工授精を行うのが当たり前。獣医や農業機械の整備会社も近くないので、いざという時は自分たちで対応しなければなりません。経営者となってからは自らの体調も崩さないようにしっかり自己管理に努めるとともに、来週、来月と先を見越して、やるべきことを考えるようになりました。
 同時に酪農の魅力も日々実感しているそうで、「仕事をしながら、朝日が昇り夕陽が沈む地球の〝1日″を感じたり、四季の移り変わりを肌身で感じています。とても人間らしい暮らしをしているなって思うんです」と彩歌さん。そして、「酪農が身近だからこそ、北海道では消費者とのつながりが少なかったように思います。反面、福井では皆さんが興味をもって牧場に来てくれることがうれしい」とも。酪農での新規就農が珍しいこともあり、飲食業に関わる人、地元議員や企業の代表、テレビ局のアナウンサー、保育園児など、年代や立場を超えた交流も生まれています。

福井産の乳製品を消費者へ


今後の夢は「きむら牧場」の牛乳を使ったソフトクリームを皮切りに、バターや生クリームなどの乳製品を開発すること。県内にはバターや生クリームを作っている牧場がないため、〝オール福井産″食材の料理やお菓子を作れるような環境を生み出すことも、この地域で酪農をやる意義や目標の一つになっています。そして、牛乳や乳製品を媒介に牧場を訪れるきっかけを作り、消費者や地域とのつながりをさらに広げていきたいと考えているそうです。
 「主産地ではないからこそ既成概念にとらわれず、自らの意志でチャレンジできる福井県の自由な環境を生かしていきたい」と語る二人。就農のノウハウや地域とのマッチングなどに対しても、「僕らができることがあればサポートしたいですね」と語ります。
 資源循環とともに、酪農と消費者・地域をつなぐ軸となる牧場になる。そして、酪農の価値を高めたい―。木村さん夫婦の酪農経営のこれからが、楽しみでなりません。


※1
牛の主食となる牧草や乾草(干し草)などの飼料の総称。豊富な繊維質は胃の働きを正常に保ち、良質な乳の生産に欠かせない。
※2
家畜の人工授精や受精卵移植を行う国家資格の専門職。繁殖の成功率を高め、健康な子牛を育てる上で重要な役割を果たす。
木村海音さん(写真右)と木村彩歌さん(写真左)
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