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先輩酪農家の声小川 翔吾
神奈川県秦野市の期待の若手酪農家。2021年4月より、経営を継承して独立しました。
先輩酪農家の声小川 翔吾神奈川県秦野市の期待の若手酪農家。2021年4月より、経営を継承して独立しました。
非農家から牧場主に、継承で酪農家になる夢を実現
小川翔吾さん(32歳)は期待の若手酪農家。幼少時代からの夢を追って酪農の道を進み、第三者継承によって念願の牧場経営をスタート。「毎日が楽しい」という小川さんに独立までの道のりと今後の抱負を聞きました。
酪農家として独立を決意、移譲希望者と出会うまで
小川翔吾さん(リトルリバーファーム代表)は、2021年4月、神奈川県秦野市で最年少の酪農家として牧場経営を開始しました。非農家からの挑戦です。きっかけは幼少時代の観光牧場での体験。牛が好きになり自分で飼いたいと思ったのは小学校に上がる前でした。農業高校で畜産を学び、北海道の大学に進学して酪農を勉強しながら、実習やアルバイトで乳牛の世話に励みました。卒業後は両親が暮らす神奈川県に戻り、県畜産技術センターに勤めた後、県内外の牧場で従業員として働き、牛を飼う技術と経験を積んできました。
「従業員でも満足でしたが、30歳の節目に一歩進んでみようと思いました」と独立を決意。伊勢原市の自宅から通える圏内で牧場を探し始めました。
「酪農事業の第三者継承の制度があることは以前から知っていましたが、神奈川県の事例はほとんどなく、牧場の数も限られているので難しいだろうと予想はしていました」と振り返ります。「秦野市に後継者を探している牧場がある」と情報をくれたのは勤務先の牧場が取引する飼料会社の営業担当者でした。
牛飼いの技術はある。
経営者になるための6カ月2020年春、移譲を希望する小林哲夫さん(70歳)と初めて会いました。秦野市の夫婦経営の牧場で、「牛舎規模54頭で当時は30頭を飼養していたので、一人でやるにはちょうどいい規模でした」と小川さん。牛舎、土地、牛、機械とトラック類も込みで2500万円は、新規就農者を対象にした無利子融資の青年等就農資金で借りられる最大3700万円に収まる金額。他にも候補の牧場はありましたが、金額が明示されたことが決め手でした。
「牛を飼う技術は身についていますが、経営は学んでいないので不安はありました」と話す小川さん。2021年4月の経営開始までの半年間、小林さんの牧場で機械の使い方や牛ごとの特性を把握する研修・引き継ぎのため従業員として働くことになりました。並行して、月1回の継承会議が開かれ、秦野市や神奈川県畜産技術センターなどの支援で手続きが進められました。パソコンが不得意なので書類作成に苦労したという一方で、研修は自分で経営するまでの助走期間になりました。研修中に自分の経営方法を考え、今、その実践と検証をしています。
小川さんに経営者になった現在の気持ちを聞くと、「楽しいです。いきいきしているとみんなに言われます」と明るい声が返ってきました。経営開始の早々に牛舎の糞尿を排出する機械が壊れて交換に200万円以上の出費があり、飼料の高騰や流通不足などの想定外もありましたが、「始めた以上は進むしかないです。やりたいことができているので、全部がやりがいです」と力強く話してくれました。
将来はこの牧場で人を育てて、
酪農業界を盛り上げたい「いろいろな人の手を借りなければ独立はできません。誰もが快く手を貸してくれました。それだけ期待が大きいと思うと、プレッシャーになりますが」と笑って話す小川さん。地元のニュースメディアやJA広報誌、テレビの取材もあり、第三者継承で幼い頃からの夢を実現した若手酪農経営者の話題が広まっています。
「酪農業界はどんどん縮小していますが、自分が第三者継承の例になれば後に続く人も出てくると思うので経営を頑張っていきたい」と小川さん。第三者継承のメリットは、「所有者が経営を辞めてしまった後の牧場を取得すると、牛も機械もすべて買いなおさなければなりません。経営を引き継げば資金面のハードルが下がります」とのこと。移譲希望者を探すためのアンテナは必要。県の畜産・就農関係機関に連絡してみるといいとアドバイスしてくれました。神奈川県では小川さんの事例で第三者継承を支援するノウハウを蓄積することができました。
現在飼っている34頭の牛を、まず一人でできる最大の40頭まで増やすことが目標。「経営が安定したら従業員や研修生を受け入れて、自分の経験をもとに新規就農者をサポートしていけたらいいですね」と小川さん。酪農業界への思いを語ってくれました。